労基法16条では、違約金制度や損害賠償額予定の制度を禁止しています。
今回は、損害賠償額を予定する契約の禁止について解説します。
1. 損害賠償額を予定する契約の禁止とは
民法420条の賠償額の予定は、あらかじめ当事者間で一定の賠償額を定め、損害の発生とその額を立証することなく定めた賠償額を請求できるもので、債権者の損害額の立証負担軽減や債務者の高額負担リスクの防止のために設けられています。この契約の下では、債権者は債務不履行の事実を証明すれば損害の発生とその額を証明しなくても予定額を請求することができ、債務者は実際の損害額を証明しても減額できないと考えられています。
労働契約の締結に当たり、賠償額を予定する契約をすると、債務不履行による実損害額にかかわらず、予定された損害賠償額を支払う義務を労働者が負うことになります。こうした労働契約は、労働者に異常に高い賠償予定額が定められ、労働者の足止め策に利用される等の弊害があることから、労基法16条では、民法を修正して禁止しています。 賠償の金額をあらかじめ約定せず、現実に生じた損害について賠償請求することは、本条の禁止に当たりません。
2. 損害賠償額を予定する契約
判例では、研修費用や留学費用を会社が負担または立替をして、一定期間勤務した場合には、その費用償還を免除する旨の合意がされたものが本条に抵触するか争われた事案があります。
研修費用に関しては、①会社所属の技能教習所を修業した者に対し修業期間の2倍に相当する期間の勤務義務を課し、この義務の違反者に一定額の弁償義務を課す契約(昭23・7・15基収2408号)、②美容師見習いでわがままに退職した場合には技術訓練の必要経費として入社時に遡り1カ月につき4万円の講習手数料を支払う誓約書などがあり、こうした契約は労働者の自由意思を拘束して退職の自由を奪うことになることから、本条に違反すると認めた判例があります。
留学費用に関しては、企業の留学規程に基づき留学すれば留学費用を企業が負担し、留学終了後5年以内に自己都合退職等した場合には留学費用を全額返還させるという制度について、業務命令として留学派遣を命じていることから留学規程が本条に違反するとした判例があります。
研修等が使用者の命令によるものであるか、援助金等が事業の必要経費ではなく立替金であるか、労働契約とは別の消費貸借であるか、返済方法を定めているか等の点から、契約が労働関係の継続を不当に強要するものかどうか、事案ごとに総合的に判断されます。
本条が禁止する損害賠償額の予定は、労働契約の不履行に伴う損害賠償に限定されないと考えられています。
3. 本条違反
前回の違約金制度の禁止と同じく、本条違反に対しては、使用者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1項)。