身近な労働法の解説 ―就業規則違反の労働契約―

2024年04月30日
身近な労働法の解説 ―就業規則違反の労働契約―

労働契約法12条は、就業規則を下回る労働契約の効力について規定しています。今
回は、就業規則違反の労働契約について解説します。

1. 労契法12条

「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と規定しています。
ここでいう就業規則とは、労働者が就業上遵守すべき規律および労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労基法89条の就業規則と同様ですが、本条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する“労基法89条では作成が義務付けられていない就業規則”も含まれるとされています。

2. 条文の解説

就業規則は、労働条件を統一的に設定するものであって、労契法においては、一定の場合に、労働契約の内容は就業規則で定めるところとなることを規定しています。
一方、就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合および就業規則の変更によっては変更されない労働条件を合意していた場合には、それぞれ、労契法7条ただし書および10条ただし書によりその合意が優先されますが、本条において、就業規則を下回る労働契約の効力について規定しています。その内容は以下のとおりです。

  1. 就業規則を下回る労働契約は、その部分については就業規則で定める基準まで引き上げられます。
  2. 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、例えば、就業規則に定められた賃金より低い賃金等就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいうものです。
  3. 就業規則で定める基準以上の労働条件を定める労働契約は、これを有効とする趣旨です。
  4. 「その部分については、無効とする」とは、就業規則で定める基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であって、労働契約中のその他の部分は有効ということです(労働契約そのものが無効となるわけではありません)。
  5. 「無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とは、労働契約の無効となった部分については、就業規則の規定に従い、労働者と使用者との間の権利義務関係が定まるものであるということです。

3. その他関連法令

  • 労基法93条では、労働契約と就業規則の関係について、「労働契約法12条の定めるところによる」と規定しています。
  • 労基法92条では、就業規則と法令または労働協約との関係について「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と規定しています。
  • 労契法9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定しています。
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